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畠中洋さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問32

加藤健一事務所公演「音楽劇 詩人の恋」鳴門例会(2008年9月29日)で“ピアニストのスティーブン”役をされる畠中洋さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

畠中洋さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
この度は開演前の貴重なお時間に、インタビューのお願いにご快諾いただきましてありがとうございます。加藤健一事務所様にお会いできるのは2001年3月『銀幕の向うに』、2005年3月例会の『煙が目にしみる』に続いて3回目となり、とても楽しみにしておりました。市民劇場の公演として畠中さんが鳴門に来られたのは今回が初めてだと思うのですが、以前に鳴門へ来られたこと……?
畠中(敬称略)
今回が初めてになりますね。
鳴門
先日、音楽座の吉田要士さん(現在は劇団スイセイミュージカル)が事務所におみえになったとき、畠中さんの話がでまして、よろしくとおっしゃっていましたよ。吉田さんとはミュージカルの舞台とかよくご一緒されたりするんですか?
畠中
いや、一緒にやった事はないんですが、飲みの席とかで一緒になったりとか(笑)
鳴門
お酒はお強いんですか。
畠中
そんな、さほど。たいしたことはないですよ。
鳴門
加藤健一さんとの出会いはどのようなことがきっかけでしたのでしょうか。
畠中
実は、僕自身は面識は全然ありませんでしたね。でももちろん加藤健一事務所のお芝居が好きでよく観に行っていましたので、加藤さんは僕のことを知ってくれていたようですね。そしてある時事務所にお話があり、すごくラッキーだし、チャンスだと思いまして、是非やらせて下さい!!と、飛びつきました。
鳴門
そうですか。加藤健一事務所のホームページでは、とても息の合った様子が伝わってきたので、ずっと前からのお知り合いで、いつかこういうお芝居を二人でやりたいね、なんて話から実現した二人芝居のように思っていました。今回は再演ですよね。
畠中
再々演ですね。2年前に再演をしまして。初演からはかれこれ5年になりますね。
鳴門
再々演では、初演と違うものですか?
畠中
そうですね。やはり初心が大事というか、初めて脚本を読んだインパクトというのが基本になりますから。ただ、その基本に戻るまでには紆余曲折というか、いろんな寄り道をして今に至ります。劇中でスティーブンがナチスの強制収容所を訪れて、その胸中を話すシーンがあるんですけれど、初演の時は想像でしか語れなくて、再演の時にその話を加藤さんにすると、「それじゃあ、どうぞドイツ・ダッハウへ行ってきて下さい」って言ってくれて、実際にその情景を見させてもらってからは自分の中で何か変わったというか、弾けたものがありましたね。虐げられていた人を演じるには、自分の持っている感性はフルに使うべきだと思いました。自分がどこまで出来ているかは分からないですが、常に意識して失礼のないよう真摯に演じなければと思います。ですから、細かいニュアンスだとか、解釈だとか、動きだとかは少しずつ変わっていますが、基本は同じですね。
鳴門
脚本も変わっていたりするんですか?
畠中
脚本は初演から同じですね。
鳴門
二人芝居とは普通のお芝居とは違いますか?
畠中
二人芝居はお芝居の基本というか原点だと思いますね。一人芝居はモノローグなのでちょっと特別なんですよね。会話で成立させるという観点では二人芝居が原点で、相手がしゃべり終えたら今度は自分というように二人しかいない、そこに面白みがあります。あと、常にずっと舞台にいるっていう快感ですね(笑)。嘘はつけないというか、スリルがあって、それでいて役者の醍醐味を味わえるのが二人芝居だなと思います。僕はミュージカルが中心だったので舞台には大勢役者がでてくる作品が多かったもので、この『詩人の恋』は僕にとってすごく特別な作品ですね。
鳴門
今までに『詩人の恋』以外に二人芝居に挑戦されたことはなかったんですか?
畠中
この作品が初めてですね。
鳴門
音楽劇という位置づけですが、セリフと歌の割合なんかは?
畠中
音楽劇ですけど分量としてはセリフの方が圧倒的に多いです。歌は舞台の中で歌のレッスンとしてドイツリートを歌う感じですね。
鳴門
畠中さんが加藤さんのレッスンを受ける設定ですよね。
畠中
はい。
鳴門
ミュージカルを中心に活動されてきた畠中さんを相手に、加藤さんがレッスンを付けるというのは如何なものでしたでしょうか(笑)。
畠中
イヤイヤ。加藤さんはもう6年くらい歌のレッスンをなさってますし、それにあの人は悔しいくらいに声がいいので、だからすごく上達も早かったです。
鳴門
では、畠中さんから加藤さんに歌のダメ出しとかは。
畠中
いや、ないです!
鳴門
ここは、こう歌うんだよとかいう姿を想像したりするんですが(笑)。
畠中
ないです! 歌の先生についていただいているんで、ないです! 僕もクラシカルな歌を歌うのは初めてでしたので。やはり、ミュージカルとクラシカルな歌は違うので。
鳴門
でも、歌にセリフと約2時間の舞台を二人だけでなされるのは大変ですよね。今回は膨大なセリフの量ですが、以前、読んだ本に役者はセリフの数を数えてほかの出演者と比べたりすると書いていたのですが、そういう経験はおありですか?
畠中
もともと、青年座の研究生だったので、その時代は意識していましたね。あいつの方が僕より10個多い、その差はなんなんだ! ってね。後で聞きに行ったりしてね。
鳴門
高校生の頃は演劇鑑賞会に入られていたとか。昔からお芝居に興味があって青年座の研究生に?
畠中
そうですね。人前で何かやるってことには興味がありましたね。お芝居も好きでしたし。たまたま高校生の時、市民劇場のような鑑賞会ではなく、年に一回観る高校生の芸術鑑賞行事で度肝を抜かれまして。近松門左衛門のお芝居だったんですが、ちょうど前から3列目の真ん中に座れまして、そこで男と女が油まみれでもみ合うシーンがあり、それを観て圧倒されたんです。実際には油はないんですが、本当に油まみれになっているように見えましたね。そして、自分もそこに居たいなと思ったのがきっかけですね。
鳴門
それで、歌の方もお上手だったので、青年座から音楽座へ行かれることになったんですね。
畠中
じゃないんですよ。青年座のオーディションに落っこちたんですよ。そしたら、研究所の所長がお前にピッタリの劇団に推薦状を書いたからオーディションに行けって言われまして。それまで見たことも聞いたこともなかったものだから、ミュージカルっていったい……みたいな感じでしたね。何を根拠にお前にピッタリなんて言ったのか分からなかったんですけどね。確かに歌は好きというのはあったし、研究生の頃に『三文オペラ』なんかをやったりしたことはあったんですけど。とりあえず、一年くらいやってみようかと始めたのが、面白くなってしまって、主役をとるまでは辞めないぞって思い今に至ります。
鳴門
青年座の所長さんは、畠中さんの歌の才能を見抜いていたわけですね。
畠中
それは、どうでしょうか。今回この『詩人の恋』という作品にめぐりあえて本当によかったなって思いますね。僕の知り合いの役者なんかも『詩人の恋』を観にきてくれたりするんですけど、いい芝居だってみんなが言いますね。
鳴門
それはこんな芝居を自分もしたい、畠中さんが羨ましいってことですよね。
畠中
ええ、だいたい芝居仲間はみんな悔しがっていますね(笑)。
鳴門
では、そんなにみんなに羨ましがられるこの作品の中で、畠中さんにとってこのシーンは思い入れがあるとか、ここのところは気合を入れて観てほしいという場面はありますか。
畠中
二幕の冒頭にあるスティーブンの独白ですね。強制収容所のあるダッハウに行かせてもらったからこそ言えるセリフだし、スティーブンとしてもターニングポイントとなるシーンですから、ここは一番思い入れが強いです。しかも、初演から5年間ずっとあがき続けているシーンですからね。今日も何がでるか……。まだ、決まってないので。
鳴門
決まっていない?
畠中
こうしようとか、ああしようとか決めていると二人芝居って面白くなくなってしまうと思うんですね。舞台は、加藤さんとここはこうしようと決めたことを披露しあう場所じゃなくて、なんと言うんでしょうか…やり合う場所と思うんです。めざす方向は一緒なんですけど、そこに行き着くまでの道が毎日違うんだと思います。だから、加藤さんもどう攻めていこうかと今日も何か企んでいるんじゃないでしょうか。
鳴門
では、今日の畠中さんも何か企みをされているんでしょうか?
畠中
企みはね、無いことは無いですね(笑)。
鳴門
アドリブとかもあるんですか?
畠中
アドリブはないですね。同じセリフの中で、お互いの企みをぶつけ合うという感じですね。
鳴門
ますます、今日のお芝居が楽しみになりました。最後に、鳴門市民劇場の会員に向けて一言お願いいたします。
畠中
市民劇場で芝居をしていると、なぜ、俳優として板の上に立っていられるのかというのを再認識させてくれますね。普段舞台をやっていても観に来てくれる人と触れ合う機会があまりないじゃないですか。なのに鑑賞会の方は搬入から搬出まで手伝ってくれて、しかもお通しまで出してくれたりしますからね。
鳴門
今回はお通しがなくてすみません(笑)。
畠中
いえいえ(笑)。すごく観賞会の皆さんが芝居を支えてくれているってことを実感します。役者と観客という関係だけではないなって感じます。その観賞会の方に気持にこたえられるようないい芝居をこれからもして行きたいと思います。
鳴門
今日は、ありがとうございました。公演後のロビー交流会も楽しみにしています。
畠中洋さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。