ホーム > これまでの例会 > > インタビュー

村井國夫さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問86


 トム・プロジェクトプロデュース公演「砦」鳴門例会(2018年3月28日)で“室原知幸”役をされる村井國夫さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) まず作品の事についてお伺いします。室原知幸という人の半生とその知幸を支えた妻・室原ヨシとの夫婦愛を描いた素晴らしい作品だと思います。村井國夫さんは、この作品をどう捉えていますか。

村井國夫

村井國夫(敬称略 以下村井と略)  室原知幸という男は一人で頑張って、戦って、奥さんは全く何も知らなかったという事があります。可成り昔気質の男だったようです。でもその中には、我慢した奥さんの思いもあったんではないかといわれています。東君の独自の解釈で、それを主軸に、闘争を支えている奥さんを描きたかったんだと思います。それでこういう話になったし、室原知幸の戦った人生を描いただけではドラマになりにくいということだったと思います。

鳴門  村井さんは沢山の舞台に出ていろんな役をされたと思いますが、この作品ではここが面白いとかここは少し工夫したんだというところを教えて頂けますか。

村井  余り面白くはないですね(笑)。ふっふっふっふ(笑)。面白くはないですけども、この作品は、やっぱり僕は九州の人間ですから昭和28年の大洪水もよく覚えてますし。

鳴門  覚えてますか。

村井  はい。筑後川が大氾濫して、僕は佐賀なんですけど、それこそ話に出てくる筑後川下流の人間です。その時は本当に小学校なんかもほとんど水浸しになりまして、運動場で筏みたいなものを作って遊んだという記憶があるくらいの、たいへんな大災害でした。
 それだからダムを造るというのは国として必要なことだった思います。でも住民に対するその態度が余りにも高圧的だったということで反旗をひるがえすわけですね。まあその戦いの仕方がやっぱり面白いというか、蜂の巣状の砦を造ってダムを造らせないという、戦い方のユニークさが、それは可成り面白い。舞台で大きな砦を作るわけにはいかないんですけど、何とか工夫して砦を作ってはいます。牛やアヒルを動員して戦うというユニークな彼の考え方と彼のその間の過ごし方というのが面白いと思います。そういう厳しい中でも少しは笑いがあるということです。
 室原知幸さんという人は、余りにもすごいというか大きな人なんで、演じるにはどうしたらいいのか可成り迷い、色々考えたところがあります。彼の資料も沢山手に入れたんですけど、本当にすさまじい闘い方でしたね。そういったものを一つ一つ丁寧に読み込んで役づくりをしました。

鳴門  個性ある役者さんたちが集まっていますが、公演中の役者さんたちの交流を教えて頂けますか。

村井  個性が強いというか本当に素敵なアンサンブルで、5人しかいないんですが、浅井はチョコレートケーキという劇団で、原口は桟敷童子という劇団で主役を張っているような俳優さんだし、花野ちゃんは若いけど芸大を出て、新国立の研修所を出て、トム・プロジェクトという制作会社に入って活躍している。この芝居は初演から2年になるけど、この2年はものすごく成長した姿があり、本当に良くなったなあと思いますね。藤田さんは藤田さんの個性がありまして、そういう意味ではとてもいいアンサンブルだと僕は思っています。生活はずーっと一緒で、お前たちの顔を見るのは飽きたというくらい(笑)朝から晩まで一緒にしてますし、仲がいいというか。そうした中でも、毎回いちいち本を読んで、ここはこうやるとか、旅中でもやってます。僕が好きなアンサンブルですね。

鳴門  徳島の吉野川に第十堰というのがありまして、その改修をするかしないのかが大問題になったのをご存じでしょうか。

村井  それでは、この作品の主題の一つでもあるこの戦いを理解してくれる人は多いと思います。北海道で演ってきたんですが、北海道ではそういうこと余り理解されない。余りにも遠くて。勿論、公共事業に対する考え方は色々あったんでしょうけども、四国に入った途端全然違います。お客さんも熱く応援してくださるし、ダム建設に反対したいと感じて下さる方も多いんで、やりやすいというか…。徳島の公演ではとてもうれしく思いましたし、いろんな力が湧いてきました。またそういう芝居になりました。徳島の人たちの理解が深いし、ましてやある程度高い年代層ですから、よく分かって観て頂けると思いますね。

鳴門  「砦」の話をして下さってる間、目をつぶって声を聴いていたんですが、ハリソン・フォードの声、あっ、これだと思いだしました。声を出す練習をするのか、もともといい声が出るのか、どっちなんでしょうか。

村井  それはもう練習では工夫できないこともあります。その人の持った体と声が親から受け継いだ貴重なもので、親にはそういう意味では感謝してますが、勿論訓練はずっとしていますが、なかなか難しいとこですね。

鳴門  声を聴けてすごく感激しています。

村井  いや、こっちも齢を重ねてますから、そういう意味ではどんどん弱くなってきていることはありますね。声といっても出すのは筋肉ですから筋肉が弱くなっていることもあります。腹筋を強くしなければいけないし、呼吸法も大事です。齢を重ねるごとにそれらに抵抗をしようかと思うんですけどもね。

鳴門  ところで最初から俳優を目指していたんですか。

村井  俳優座の養成所からですね。最初は舞台からですね。

鳴門  鳴門は会場が広いのですが。

村井  拝見したらそうですね。だからそれに負けないようにしっかりやりたいと思っています。音が響くものですから、どうしても言葉が連なると、響く音との連動があって言葉というものが理解しにくい状況が出来てしまうんですよね。コンサートには良いんでしょうが。それでちょっと堅めにしゃべんなきゃいけないかなあと思っています。堅めというのは、子音をちょっと堅くしないと、その後の母音のあーあーあーという音だけが聞こえてくるんで。(強調して)「それが」って言うのと、(普通に)「それが」って言うのではやはり違うんですよね。伝えることは同じような量で伝えなきゃいけないので、それが聞きにくいとか伝わりにくいという風におっしゃるのであれば、それは役者の負けですから、これはやっぱり劇場とも勝負しなきゃいけないですね。

鳴門  舞台を離れて日常生活での趣味はありますか。

村井  いや全くないです(笑)。いろいろありましたけど全部やめました。ゴルフもやめ今趣味は全く無いです(笑)。

鳴門  いやそれじゃあ、健康法とかもやってないんですか。

村井  健康法?僕は運動も何もしないですけども、うんまあ妻の料理ですかね(笑)。それはそれはものすごく考えてくれてます。それは本当に感謝ですね。僕たちの仲間が、奥さんの料理が僕を支えているんだと言ってくれますけど、僕はただ食べているだけで、全く台所に入らない。

鳴門  一度旅に出られたら長いですからね。

村井  それは気を付けながら、なるべく考えながらしています。やっぱり食事が一番大事ですからね。望むべきはなるべく健康的なものですね。体を使って声というものを出すものですから。やっぱり声がちゃんと伝わらなきゃいけない。大きい小屋だと表情なんかはほとんど分かりませんからね。やっぱり声の方が一番なんですよね。昔から一声、二品、三姿っていうのが舞台役者の条件ですからね。一は声、二は品みたいなもの、三は姿で演技はどこにも入っていない。元気で大きな声だしゃ大体伝わるんですよ。

鳴門  昔、宇野重吉さんが鳴門の舞台に来られて、点滴を打ちながらの最後の舞台を見せて頂いたことがあるんです。その時は一番後ろの席で観ていたんですが、あの方の声が聞こえるんですね、この舞台で。

村井  あー、「3年寝太郎」かなんかですね。

鳴門  すごいですね。

村井  三平ちゃんというトラックの運転手がいるんですが、彼がおんぶして舞台袖まで連れていったぐらいの状態だったと聞きました。

鳴門  本当に舞台が観られるんでしょうかというくらいひどかったですが。すごいなあと思いました。話は変わって、好きな言葉とか座右の銘とかありますか。

村井  僕はサインを頼まれた時によく書くんですが、清水公照というお坊さんがいらっしゃるんですが、その人の「遊び、戯れ、人生は遊び、戯れである」という言葉が好きです。それはお坊さんが余程修行なさって到達する境地なのかなあと思って、あー僕も人生遊びながら、戯れながら生きていけたらいいなあと思って書くんです。その言葉がとても好きですね。やっぱり人生80年か90年か今はありますけど楽しみながら人生を送っていけたらと思うし、楽しむためにはその間努力も必要ですし、だけどもその到達したいところは高くて、まあ目標ですかね。

鳴門  長い間役者をずーっとやってこられて、本当に大変だったんでしょうね。

村井  いやいや僕は後悔ばっかりで(笑)。いや本当に恥ずかしい、生きていることが恥ずかしいぐらいですけど…。

鳴門  最後に我々のような演劇鑑賞団体の活動について、思うところがあればなんなりとお伺いしたいのですが。

村井  僕が演劇鑑賞団体との関ったのはこの10年ぐらいです。それまでは東京で、大舞台で、レ・ミゼラブルとかサウンド・オブ・ミュージックとかなんとかやっていたんですが、10年ぐらい前に、ある機会で演劇鑑賞会の例会でやることになって、その時にやっぱり待って下さる方々がいる感じがちょっとうれしかったですね、東京じゃ観に来てやるという態度がお客さんにあって、それが地方に行くと2ヶ月に1度とか廻ってくる演劇を心待ちにして下さる方がいる。一人でも二人でもいて下さるだけでもやっぱり全然違うし、そういった意味では、僕は今は一年に一度かそんなものですけど、それでも地方へ廻っていけることが嬉しいことでもあるし、皆さんそうやって一人でも多くの会員を募って活動していることが、嬉しく思います。是非是非これからも頑張って頂きたい。会員を集めるのも大変だと思いますけど、我々としては是非芝居を観て頂きたいなあと思います。その努力には感謝しています。

鳴門  今回もクリアしました。

村井  会員数クリアですか。本当に感謝してます。

鳴門  どうも有難うございました。

村井さんとインタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。