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阿部敦子さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問85


  劇団文化座公演「三婆」鳴門例会(2018年1月18日)で“富田駒代”役をされる阿部敦子さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

鳴門市民劇場(以下鳴門と略) この作品は、今の社会状況にぴったりマッチしていると思いますが、阿部さんはどのように捉えてますか。

阿部敦子

阿部敦子(敬称略 以下阿部と略) この芝居は皆さんご存知と思いますけど、有吉佐和子さん原作で、半世紀前に書かれた作品で文化座では30年前に初演をしているんですね。
 創立メンバーの鈴木光枝、河村久子と遠藤慎子の3人でした。そして10年後に再演を先輩たちがおやりになって、今回私たちなんです。時代は有吉先生が書かれた半世紀前よりも、超高齢化社会を迎えた現在、さらにリアリティを持って受けとめられると思います。時代がこの作品を呼んでいるという感じがして、有吉さんの「恍惚の人」と同様に有吉さんの先を見る眼というものを私たちは演じながら感じ、そのすごさを実感しています。

鳴門  話の面白さがにじみ出ていて良いですが、改めて工夫したこと等ありますか。

阿部  30年前はシーンごとに暗転幕が降りる舞台構造でしたが、今回は舞台装置に盆を使い、シーンが終わると盆が回って次のシーンが展開するという、現代に合ったスピード感になっていると思います。私たちは出演シーンが終わり、盆が回ると急いで衣裳の着替えです。
 「三婆」は全シーン早変わりなんですよ。

鳴門  うわー、そりゃ大変だ(笑)。

阿部  一つシーンが終わっても、うしろでは運動会みたいで、早替え場で全部衣裳替えをして次のシーンへと、二時間半走りっぱなしという状態になっています(笑い)。舞台は客席から整然と見えるとは思いますが、裏では、盆はスタッフが手で回していますから、盆を回している人間、私たちは衣裳さんたちと早替えと、全員休む間がなく、そのへんが大変と言えば大変です。

鳴門  公演中の役者さんたちの交流はどういう感じですか。舞台の上だけでなくて四国を廻っている間の交流はどういう感じですか。

阿部  毎回、開演の一時間半前にスタッフさんも役者も集まって、「場あたり」をやります。全員集合で舞台の確認と、前日の問題点を解消して毎回臨んでいます。プライベートと言えば、私たち32名は移動も仕事も同じリズムですから、ホテルに帰ったあとが、自分たちの唯一のプライベートの時間です。地方を廻っている時に全員一緒に旅館で食事ということが、たまにありますね。そういう時には盛り上がりますね。お酒を飲みながら会話が出来るというのは一つの楽しみです。

鳴門  鳴門は1ステージですから、時間がなくて、もっと見てきて頂きたい場所が沢山あるんですが、そんな余裕がないのが残念です。

阿部  昔に比べるとハードになりましたね。今回四国を廻るのもかなりハードで、今朝も7時半にバス移動で、スタッフや若手の役者はもう舞台を仕込んでますし、四国では2回ありますからね。何日かいられるという日程が作れたらいいんですけどね。

鳴門  舞台に立たれるようになったキッカケは何だったんですか。

阿部  よく聞かれますが、私は最初から演劇を志して劇団文化座に入団したわけではないんです。大学時代には体育会系のクラブに入っていましたが、そこでクラブの方針に疑問を持ち一学年全員が辞めたんです。大学の授業以外はほとんどクラブで、春休みも夏休みもすべてクラブの時間だったもので、それがポッカリ穴があいて、その時に若気の至りだと思いますが、一番自分の苦手なものをやろうと思ってしまったんですね。人前で何かをやるというのが一番苦手な人間で、演劇をやろうと自己改革みたいなことで、文化座の研究所に入所しました。そこからです。だから演劇的知識は全てゼロからのスタートでした。

鳴門  ところで、体育会系というのは何だったんですか。

阿部  ゴルフ部だったんですよ。

鳴門  えー、ゴルフ部。今だったらメジャーなんですけど(笑)。

阿部  そうですね。今ほどメジャーじゃないですね。

鳴門  ジャンボ(尾崎)が出てきた位ですか。

阿部  もうスターでした。女子プロでは岡本綾子さんが全盛の時ですね。ゴルフおやりになるんですか。

鳴門  ちょっとだけやります。

阿部  綾子さんは大先輩ですし、倉本さんとか羽川豊さんの時代です。大学の時のコーチが羽川豊さんで、羽川さんが大学のチャンピオンになられて、倉本さんがその後PGAの会長になられた、その時代ですね。ジャンボさんたちはもっと上の世代ですね。

鳴門  ジャンボは徳島の南の方の出身なんです。

阿部  あーそうでしたね。一番下の直道さんと同世代かと思います。うちの大学ではゴルフ部が一番体育会系で厳しかったんです。大会で勝つ勝つ勝つを目標に、とにかく朝3時に起きて4時スタートですから、一日最低でも2ラウンド、終わってからパターの素振り500回、それで春休み夏休みは明け暮れる。私たち一学年は、楽しいゴルフがやりたかった、趣味で良かった。

鳴門  今、本とか映画とか歌とかで興味あるもの好きなものがありますか。

阿部  今読んでいるのは老いについて書かれたものですね。うちの両親も80歳を過ぎまして、元気な両親ですけど確実に老いが進み、記憶の方もあやしくなっています。これから先の介護とか認知症とはどういうものなのか、その種の本ばかり今読んでいます。

鳴門  私も経験してきていますが、今度は介護される方になりました(笑)。

阿部  うーん。私と同世代の人たちの経験した本とかも読んでいます。介護のためにお仕事を辞めた方たちの本とか。親とどう向き合うかとか。どんどん頑固になって記憶がなくなっていく親とどう向き合うかということも考えますね。経験された方たちの本を読んで参考にしています。

鳴門  好きな言葉とか座右の銘はありますか。

阿部  座右の銘はないです。仏教画を描かれていた安達原玄先生という方がいらっしゃるんですが、その方が色んな仏教の絵をおかきになっていて、そこに一言添えられている絵を何枚か持っています。小さな掛け軸ですが、その時の自分の気持ちにフィットするものをかけて、その言葉を自分の心の中に入れて生活しています。この旅に出てくる前は、「無理もしない、我慢もほどほど、でも怠けては駄目」という言葉が日常の自分にフィットしていて、自分の部屋に掛けていました。その時の私が信じたいという思いの言葉でした。

鳴門  私たちのような演劇鑑賞会の活動について思っていることがあったら一言お願いします。あわせて鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いします

阿部  皆さんどこも厳しい状況で本当に大変だと思うんです。こちらでは毎回クリアされていますよね。それが毎回、毎回本当に大変なことだなあということが、旅を廻って感じるんです。
 ただまだ演劇に出会えてない方もまだまだ大勢いらっしゃるんじゃないか。最終的には舞台を観る観ないは好みですから、それはしょうがないと思いますが・・・。まだ出会えてない方たちと巡り会って頂きたいし、観て頂きたいと思います。それには演劇は楽しいものであり、出会えて良かったと思える舞台じゃないと駄目ですね。私たちの仕事は皆さんの心が動いて、何かを感じてもらえ感動してもらえる芝居を創るということです。その様な芝居でたくさんの会員の方達と出会いたいと思いますね。

鳴門  どうもありがとうございました

阿部さんとインタビューアー

E-mailでのお問い合わせは、         鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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