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川端槇二さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問46

  劇団NLT公演「宴会泥棒」鳴門例会(2011年3月24日)で“爺さん”役をされる川端槇二さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

川端槇二さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)『宴会泥棒』という奇妙な職業は50年前のイタリアに本当に存在していたのですか?
川端槇二(敬称略以下川端と略)似たような感じで言えば、現在でも冠婚葬祭の場でご祝儀だとか香典をさも関係者を装って持っていっちゃう事ってありますよね。おそらく『宴会泥棒』という職業そのものはないと思います(笑)。この『宴会泥棒』の原題は『キャビアか煮豆か』というんです。上流階級の高級食材のキャビアと下層階級の庶民的な食材の煮豆、という意味なんでしょうね。ただ、これをそのままタイトルにしても日本では意味が伝わらないだろうし、つまらないですよね。なので、うちの劇団ではよくすることなのですが、いろんな意見を持ち寄ってタイトルを何にしようという話し合いをするんです。今回のお芝居は、それっぽくて、面白いんじゃないかということで『宴会泥棒』に決まったんです。僕のアイディアなんですけどね。
鳴門
どんな芝居なんだろう?って興味惹かれるタイトルですよね。
川端
上流階級の宴会なんてあまり食べないだろうし勿体ないからって食材の横流しをするなんて非常にセコイですよね。そんなに悪いことはできない主人公の人の良さがでているんじゃないでしょうか。
鳴門
川端さんのよぼよぼじいさん役にはセリフがないらしいと聞いたのですが?
川端
ええ、そうなんです。帽子を取ったら泣きだす。口の中に飴玉が入っていないと歌いだすと、『歌うと泣く』これしか台本には書かれてないんです。みんな役に名前があるのに、僕の所だけ『じいさん』としか書かれてないんです(笑)。
鳴門
『歌うと泣く』だけじゃ演じるのも難しいんじゃなんですか?
川端
ずっと車イスに座りっぱなしの役ですし、やりたがりの俳優なんでいろいろやりたくなってしまうんです。みんなの動きをジーと見ながら、無いセリフを増やしていったという事がありました。
鳴門
アドリブが入っているってことなんでしょうか?
川端
『こんにちはいい天気ですね。』みたいなセリフはしゃべれませんので、本筋と絡んでいるようで絡んでないセリフを一言入れる程度ですけどね。稽古中はアドリブで入れたセリフですが、今は演出の許可も貰い、ちゃんと芝居のセリフとしてやっています。
鳴門
そのように稽古中にアドリブを取り入れる作り方は珍しいんでしょうか?
川端
作家さんによっては『いいお天気ですね』ではなく『いいお天気ですな』です!と言うように細部にこだわる方もいらっしゃいますが、うちの劇団は翻訳劇ですので、このように稽古中にセリフを探して創っていくことはよくあります。
鳴門
では、初演から進化していくこともあるんでしょうか?
川端
本筋は変わらないですが、見ている方の反応から細かなところを膨らましていくことはあります。コメディの芝居をしていく上で何をお客様に楽しんでもらえるかと考えると、役者のおもしろさ、役者の個性で、どれだけ役を膨らませられるかというのが重要になってくると思います。また、コメディといっても、直訳しただけの台本ではなかなか生きてこないんです。そこで、釜紹人さんに上演台本をお願いしたところ、今回の『宴会泥棒』ができあがったんです。原作とはずいぶんいろんなところで変わっています。原作にはもともとテーマ的なものはないんですが、そこを、ただ笑わせるだけでなく夫婦再生をテーマにもってくることによって、ぐっと芝居が生きてくるようになったんですね。
鳴門
みせる役者という点で、林与一さんと旺なつきさん、時代劇とミュージカルの異色の共演ですよね。そこには川端さんのねらいがあったのでしょうか?
川端
自分達だけで配役する劇団が多い中、うちは昔から客演をお願いすることに抵抗が無かったので、今回の与一さんと旺さんも、この脚本ならこの二人に是非にとのことで、実現したんです。旺さんは、ご存知の通り歌や踊りはもちろんですが非常に演技力がある方ですよね。以前『黄昏てキッチン』で客演していただいた時の、非常にパワフルで愛らしい姿をみて、ただ耐え忍ぶたけでない芯のあるマリア役にはぴったりだと思いお願いしました。与一さんとは中村美律子さんの公演の際、僕もご一緒させて頂いたんですが、与一さんは非常に忙しくて、稽古に3日しか出られなかったんです。そこで演出のジェームズ三木先生から「川端くん、申し訳ないんだけど稽古中は与一さんの代役をやってくれないか」といわれ、与一さんが稽古に来た時に僕はこう、こう、こうですと、動きとかを伝えたんです。そうしたら与一さんは、はい、はい、はいと聞くだけで、みごとに演じられたんです。それを見て、凄い人だなと思ったのが始まりです。レオニーダは泥棒で、汚れ役ですよね。しかも、実際はナポリの裏町に住んでいる下層階級なのに、ちゃんと上流階級の人に見える品を持ち合わせてなくてはならないんです。おおらかで、子供らしさもある与一さんはレオニーダのイメージにぴったりだったんです。また、与一さんの様に一世を風靡した方には往々にして『わたしが、それをやるんですか?』というような方もいらっしゃるのに、そのようなこともなく、NLTのコメディの中に溶け込んでくださっています。座組のなかでいざこざ(と言いながら、チャンバラの格好をしています)があるとお客様には分かってしまいますからね(笑)
鳴門
翻訳にあたり、原作と変えているところはあるのでしょうか?
川端
原作とはずいぶん変えています。原作が書かれたのも50年も前になりますしね。例えば、マリア・カラスの話題から入っていきますが、原作は別の歌手なんです。もちろんイタリアでは有名な方ですが、日本では通じないですからね。また、マリア・カラスに変えただけでなく、おデブちゃんだったという話題も釜さんの創作だし、キャスティングもおデブちゃんだったから、彼女をジュリエッタにしたんです。普通、ドラマに出てくる若い男女は美男美女ですが、私達の普段の生活の中では、必ずしも美男美女である必要はないし、おデブちゃんだったり、美男とは言えないおぼっちゃまの方がリアリティがあるんじゃないかと考えたんですね。
鳴門
川端さんの好きなシーンをお教えください。
川端
一幕の途中から出ていて、車イスに座って寝ていて……と見せかけて薄眼を開けて後で、みんなの駄目だしをしないといけないし(笑)。どのシーンもおもしろいんですけど、最後の場面でしょうか。マリアのセリフに『私達、婚約20年目なの』とあるように、2人は結婚してないんですね。宗教上の問題で、イタリアは一度結婚すると離婚がとても大変なので、ずーっと婚約中だったんです。でも、最後の最後に、自分はマリアを愛していることに気づき、帽子で顔を隠しながらプロポーズする与一さんの姿がいいですね。男のかわいらしさが垣間見られるシーンは、さすがは与一さんです。このセリフのためだけに、今までドタバタやってきたと言ってもいいんじゃないでしょうか。
鳴門
川端さんとイタリア喜劇との出会いは、どのようなきっかけだったのですか?
川端
NLTは、初めフランス喜劇をやっていたんです。外国のお芝居で一番大変なのは風俗や宗教の問題なんですね。日本ではなかなか理解されないので、演じる際には何かに置き換えることが必要になってきます。なので、どこの国だからというようなことはないですが、ただイタリアは、国民性として人に道を聞かれた時、知らなくても答えてしまうといういい加減なところがあるんですね。そこに、喜劇性を感じるんでしょうか(笑)。
鳴門
休日はどのような事をして過ごされているのですか?
川端
釣りに行く程度ですね。昔はステージ数もあったので、旅公演には必ず釣り道具を積んでいたんですが、今はなかなかそういった時間もありません。今はもっぱら脚本を探すことですかね。僕らがやりたいような芝居は翻訳がされていないものが多いものですから。
鳴門
今までで印象に残る舞台・思い出深い役、またこれから挑戦したい作品等、お聞かせください。
川端
あの役をもう一度やりたいといのはありますね。例えば『OH!マイママ』。一昨年やった作品です。再演する際に、翻訳の段階から別の方にお願いしたら全く違う作品に仕上がったんです。造りかえることによるリスクももちろんありますが、同じ原作なのに翻訳される方によって、お話がここまで変わってしまうというおもしろみが味わえるのは、翻訳でないと出来ない事です。そういう意味でも、僕は翻訳劇が好きなのかもしれないですね。
鳴門
私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
川端
シリアスなドラマだとこっちの役者とこっちの役者の2人の間さえ成立していればいいんですが、コメディは役者側とお客様の関係が成り立たないと、笑っていただけないんです。客席と一緒になって創る舞台、それが僕らが目指しているコメディなんです。長野の上田で公演した時のことです。県民性でしょうか、そんなに笑わない地域なんですが、舞台が終わったロビーで今日は笑いが少なかったねと話していたら、ロビーで座ってバスを待っていた2人のおばあちゃんが、僕達に手作りのおはぎを手渡しながらこんな話をしてくれたんです。『お芝居を観に街に出てくるのが楽しみでしょうがない。これから2時間かけて帰るんだけど、今日みたいな楽しいお芝居だと、その話をしていると2時間の帰り道も全然苦にならないんです』僕達の芝居をこんなに待ってくれる人がいるんだと、市民劇場の方との触れ合いを初めて実感した出来ごとでした。どこの組織も厳しいとの声をききますが、これからもみなさんの期待に応えられるような芝居をやれたらいいなと思います。
川端槇二さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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