ホーム > これまでの例会 > 「赤シャツ」 > インタビュー

横堀悦夫さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問41

劇団青年座公演「赤シャツ」鳴門例会(2010年5月22日)で“赤シャツ”役をされる横堀悦夫さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

横堀悦夫さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
赤シャツから見た『坊っちゃん』という逆転の発想にとても興味を惹かれました。この作品のみどころについてお聞かせください。
横堀(敬称略)
観ていただく会員の皆様には是非『坊っちゃん』を読んでから観ていただくと、楽しみも倍増すると思います。何といっても、原作が四国の松山を舞台にした『坊っちゃん』なので、他の地域の方より、原作を読まれている方の割合も多いと思うので、きっと楽しんでいただけると思います。『赤シャツ』は原作のストーリーと何ら違いのないよう、見事としか言いようのないくらい上手にマキノノゾミさんが書かれておられるんですよ。お芝居の中でも、坊っちゃんのナレーションがでてきますが、それは原作そのままですし、劇中で僕達が語るセリフも原作と同じ言葉があります。マキノさん自身も夏目漱石がものすごくお好きだそうで、夏目漱石の別の作品、例えば『吾輩は猫である』などから題材を持ってこられており、夏目漱石の世界とマキノさんの世界が上手にミックスされている作品になっています。でも、会員さんからいただく嬉しい言葉は、「このお芝居を見て『坊っちゃん』を読みたくなりました」という言葉ですね。とにかく、坊ちゃんも出てこなければ、原作にない場面ばかりなのに、すごく原作と密接に関わっていて原作をはずしていないというところが、みどころだと思います。
鳴門
イナゴや釣り、乱闘のシーンなんかは描かれてないんですか?
横堀
坊っちゃん目線ではないので、坊っちゃん自身が出てくるシーンはないですね。ただ、その場面を匂わす場面はあります。
鳴門
横堀さんには『赤シャツ』の中の赤シャツはどのような人物に映っているのでしょうか?
横堀
まず、帝大を卒業している設定なので知的な人物ですよね。だた、やっかいなのが、彼は人に尊敬されたい欲のある人物だということです。赤シャツを演じている上で、彼が波風を立てず穏やかに生きていく人物なら普通の人で納まるんでしょうけど、「私を見て、すごいでしょ。私、頭いいんですよ」っていうのを匂わせる人物だというのが彼の面白いところなんです。
鳴門
大小はあるにしても、そういう人は、現代の私達の周りにもいますよね。確かに人間味があって面白いですよね。それに今回の赤シャツは、小鈴やマドンナから求愛されて、とてもモテてますよね。
横堀
気持ちを許せる存在が芸者の小鈴なんでしょうね。プライドがあるだけに、特別に親しい人を作らず、本音を明かせない人なんですね。だけど、小鈴にだけは甘えられる。そういう存在としてマキノさんは描かれているようですね。最大のテーマは、赤シャツからみた坊っちゃんは無鉄砲で繊細のかけらもないような男だと映っていながら、ああいう男はこの先貴重な存在になるだろうし、ああいう男らしい男になりたいという、切実なる赤シャツの願いを語る場面なんですね。そこが、マキノさんが原作をひっくり返したところで、赤シャツは、松山を不浄の地といわれ殴られても2人が去っていくのを悲しく思い、あんな2人がいてくれたらいいなという思いを持って見送っていたんだと、納得させてしまうのがマキノさんのみごとなところなんです。
鳴門
坊っちゃんでは語られなかった赤シャツの内面が見える舞台が『赤シャツ』なんですね。原作には『女のような声』などと具体的に語られている赤シャツの特徴などを演じるのに苦労された事などはありますか?
横堀
笑い方などは、脚本には『ホホホ』って書いてあるんですね。でも普通『ホホホ』とは誰も笑わないですよね。なので『ホホホ』と聞こえるように笑う工夫をしたりはしましたね。他には、赤シャツは過去いろんな俳優が演じていらっしゃいますから、世代によってイメージが違うと思うんですよ。私なんかは江守徹さんだったりするんですが、それぞれの世代の持っている赤シャツのイメージの共通項を取り出して演じるというのがとても苦労しました。
鳴門
今日の舞台では、赤シャツの集大成が見られるという訳ですね(笑)。
横堀
そうですね。でも、マキノさんのすごいところは、初めの嫌な赤シャツが、最後にいい奴になるんじゃないんですよ。その嫌味なキャラクターのまま、原作通りのセリフを言っているのに、私達が抱いていた誤解を解いてゆくんです。あの時の赤シャツのセリフの本意はここにあったのかというようにね。
鳴門
難しいテクニックですね。イメージを壊さずに、イメージを壊していくというのは。観ている私たちは、マジックを見せられているような感覚になりそうですね。ところで、今日の搬入では荷物がかなり多かったですが、見事な舞台装置が出来上がりそうですね。
横堀
全部で6場面あるのですが、全てセットチェンジするんです。その為に回転舞台になっていまして、表に出ている部分でお芝居をしている間に、裏では次の場面の飾りをして、舞台が回転したら、また裏を飾り替えてという事を繰り返しています。
鳴門
そうなんですか。大体は作り付けの舞台が何度か回転するというパターンが多いですよね。裏方さんは大変そうですね(笑)。こだわりの小道具なんかもあるんですか?
横堀
演出家のシャレですが、招き猫と豚の蚊遣りが置かれています。マキノさんが書かれた『赤シャツ』のひとつ前の作品に『フユヒコ』がありまして、その作品は招き猫がテーマになっているんですよ。その小道具の招き猫が、押し入れを開けると置いてあるんです。
鳴門
『フユヒコ』を観ている人は、ニヤっとなりそうですね(笑)。
横堀
青年座がマキノさんに書いていただいた作品は3つあるんです。『MOTHER』『フユヒコ』そして『赤シャツ』なんです。『MOTHER』で使われていた小道具が豚の蚊遣りです。
鳴門
では、12年前の例会『MOTHER』でその豚の蚊遣りは鳴門に来ていた訳なんですね。
横堀
そうですね。時代もちょうど合うし、置いておこうっていうシャレですよ。
鳴門
横堀さんご自身としてのこだわりとか、ここを観てほしいという場面などはありますか?
横堀
そうですね。観てほしいなどと偉そうなことは言えないんで、私の好きな場面でもいいですか?
鳴門
もちろんです。
横堀
好きな場面だと、やはり最終の場面ですね。プライドを持っていた人間が捨て鉢になった時どう変化するのかというところです。僕自身、まだ役をがっちりとつかみきっていないんですね。だからこそ、その状況下で生まれるものが結構大きいんです。
鳴門
では、毎回どう演じるかを決めずに舞台に立たれているということですか?
横堀
決めていないというと、ちょっと違うんですが、赤シャツは殴られてボロボロになって精神が破たんしている訳ですよね。本当にそういう状態に陥った人間ってどうなるのか計り知れないんです。だから、ありきたりな言い方ですが、常に新鮮な気持ちで演じたいと思うので、がっちり決めてその場に臨みたくないんです。
鳴門
では、演じる度に気持ちの動く方向が違うということですか?
横堀
もちろん、大きくは変わりませんが、振幅はありますね。演出家は、この時代の人達は今から100年後はどんな世の中になっているのかって事をみんなが考えていた時代で、その思いを赤シャツに共有させてあげてほしいと、難しいことを言う訳ですよ。なので、最終話の在り方は僕とって、とても大切な場面なんです。回数を重ねるごとに、色も違ってきていますしね。
鳴門
色とは?
横堀
初期の頃に比べると、すごく分かりやすく、シンプルなものになっています。しかしながら、芝居自体は深くなっているんですよ。なので、もし最初の頃を観られている方がいらっしゃれば、受けるイメージは違ったものになるんじゃないでしょうか。
鳴門
なるほど。今日はどんな赤シャツが観られるか楽しみですね。ところで、横堀さんご自身についてお伺いしますが、お休みの日はどのような事をして過ごされていますか?歌や絵に興味がおありだとか?
横堀
ああ、プロフィールの趣味の欄にそう書いていますよね。あれは難しいんですよ(笑)。興味って変わっていくじゃないですか。今は英会話にハマっていますね。去年に外部の芝居で市村正親さん主演の『ANJIN』をやったんですね。その舞台にはイギリスの俳優が9人も出演していまして、それがきっかけで英会話に興味を持つようになりました。まだ、初めたばかりなんですけどね。2007年に海外公演で中国に行った時は中国語にハマって勉強しましてね。今は中国語の方はちょっと横に置いておいて、英語に力を注いでいます。
鳴門
英語や中国語でお芝居ができるようになればいいですね。
横堀
そうなればいいですね。なので、まずは日常会話ができるようになればと思っています。コミュニケーションがとれれば楽しいですからね。
鳴門
最後に、私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
横堀
みなさんに楽しんでほしいというのは当然なんですが、舞台の魅力を皆さんが感じてくれたらありがたいですね。僕は、舞台にはドラマや映画などの映像だと伝わらない何かがあると思うんですね。特にマキノさんが書かれている脚本にはそれが散りばめられていまして、観ていて思わず「馬鹿だなぁ〜」と思ってしまうような素敵な場面がいくつもあるんです。それは、生の舞台だからこそ感じられるものなのです。なので、ただ面白かったという以外にも、今日の『赤シャツ』を通して、舞台ならではの魅力を1人でも多くの人たちに味わってもらいたいと思っています。
横堀悦夫さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。