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風間杜夫さんに開演直前インタビュー

楽屋訪問40

シルバーライニング公演「招かれた客」鳴門例会(2010年3月28日)で“ジェラール”役をされる風間杜夫さんを開演前の楽屋に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

風間杜夫さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
本邦初公開の『招かれた客』、早くも1カ月が過ぎましたが、各地の反応はいかがですか?
風間(敬称略)
徳島・阿南とまわり、今日の鳴門。これから高松・今治へ行く予定です。演劇鑑賞会として地方を回らせていただくのは久しぶりなんですが、市民劇場のみなさんは本当に温かく迎えてくださって嬉しく思います。この作品はフランス喜劇ですが、みなさんよく笑って下さるので、演じがいがありますね。
鳴門
就活をテーマにしたこの作品は今の日本にも非常に通じる設定ですね。この作品の見どころはどこでしょうか?
風間
そうですね。今の日本ではリストラや就職難などの問題を抱えている人はたくさんいると思います。『招かれた客』は就職活動にてんてこ舞いする夫婦のお話なんですが、必死に生きている人間の哀切感を感じていただければと思います。プロデューサーの堀野さんの狙いとしては、おおいに笑って泣いていただきたいという思いがあるようですね。徳島例会での交流会では本当に泣けたというお声もありました。この話はアメリカのユーモアのようなパッピーエンドではないんです。翻訳家に言わせると毒を含んだ笑いと言いますか、この夫婦これからどうなるんだろうという余韻のある最後となっています。
鳴門
今回、風間さんはカツラをつけての登場ですが、カツラをつけるアイディアはどなたが考えられたのですか?
風間
脚本自体が後頭部が薄くなっているという設定なので、どうしようかって鵜山仁さんと相談したんです。意見としては、決してハゲじゃなくてもいいんじゃないか、白髪が多いとかでもいいんじゃないかって話もあったんですが、ハゲの面白さっていうと失礼ですけど(笑)、どうしても演出家がそこにこだわりましてカツラでやりましょうということに。本当によくできてるカツラなんですよ。
鳴門
舞台で観た時はびっくりしました(笑)。
風間
ええ、遠い席から見ると、『いよいよ風間さんも頭が薄くなったか』と思う方も多いらしいんですよ。なので市民劇場のみなさんの前では通例になっておりまして、カーテンコールで『これはカツラですから、あらぬ噂をたてないように』とご挨拶させてもらってます(笑)。
鳴門
カツラ以外でもこだわりの小物や演出などはありますか?
風間
舞台一面に鉄道模型のレールが敷かれていて、機関車が走っているところですね。他には、テーマ曲としてクロード・フランソワというフランスで大人気の男性歌手が歌っている歌謡曲が指定されているんですね。でもクロード・フランソワって言っても日本人には知られてないですから、それに匹敵するのは誰だって事で、私のアイディアが取り上げられアダモで行こうということになりました。アダモの『雪が降る』で幕が開くんですが、それは演出家が決定しました。また、明りの変化で心理描写をしたり、映像を使った演出家のアイディアが随所に散りばめられています。
鳴門
プロデューサーの堀野さんは、今回のジェラール役には風間さんがぴったりだとおっしゃっていましたが、私は『Xファイル』のモルダーの不可思議なことに対して沈着冷静であり、最期にはウィットに飛んだ会話をするというイメージが風間さんの声にはぴったりだと思います。実際の風間さんはどうなんでしょうか?
風間
全然違いますね。ジェラールは非常に子供じみた部分がある男でして、52歳でリストラされて3年間失業しています。子供がいない為か、鉄道に凝っていたり、感情もころころとひっくり返ったりしますし、奥さんを愛しているんだかいないんだか分からないような男です。必死に就職しようとする彼の悲しさを伴った滑稽さを表現できたらと思っています。ジェラールは先ほど話にでたモルダーのような、沈着冷静だとか深い思慮のもとにとかとはかけ離れた人間です。
鳴門
風間さんご自身は、どちらに近いのでしょうか?
風間
ジェラールの方が僕の地に近いですね(笑)。
鳴門
出演者は4人だけという、少ない人数での稽古の様子はどのような感じだったのでしょうか?
風間
川端槇二さんは劇団NLTで翻訳もののコメディをされていて慣れてますし、久野綾希子さんは劇団四季でご活躍されていましたし、綾田俊樹さんは(僕らは綾ちゃんって呼んでまして仲がいいんですけど)柄本明さん達と東京乾電池という劇団を結成し、いわゆる小劇場出身の役者ですし、僕は劇団つかこうへい事務所という小劇場出身で、それぞれ出自の違う4人ですからね。これだけ出身の違う4人が集まったらどうなるのだろうと思ったこともありましたけど、稽古を重ねて行くうちにそれぞれの演技スタイルを分かりあってとてもいい味がでてきたと思います。異種格闘技のようなアンサンブルで舞台を作っていくと、ひとつの劇団で作る芝居とは、また違うものが生まれるんだなという気がしました。
鳴門
たくさんの作品に出演されていますが、出演される作品はどのようにして決められるんですか?
風間
これが終わると5月は南座の1ヶ月公演、明治座でも座長公演をやらせてもらっていたり、だんだん商業演劇にばかり足が向いてしまうところがあるんですね。そうするとどうしてもイメージが固定されてしまうんです。僕は、軸足をひとつに決めたくないという思いがあるので、いろんなことに挑戦したいと思っているんです。例えば、ずいぶん昔になりますが、仲代達矢さんとのふたり芝居や、阿佐ヶ谷スパイダースで長塚圭史くんと芝居をしたり、岩松了という劇作家と芝居をしてみたり、シアターコクーンで小泉今日子さんと共演してみたりとね。今年の秋にはまた、岩松了君とシアターコクーンで芝居をする予定です。また、昨年の秋に一緒に芝居をした、劇団ガジラに鐘下辰男という僕よりひと回り以上も年下の劇作家がいるんですが、彼はなかなかの社会派というか硬派な劇作家でいい作品を書くんですよ。傍から見ると風間杜夫はいったいどこへ行くんだって思われたりもするんでしょうけど、僕としてはひとつの事に囚われることなく芝居をしていきたいと思っています。ありがたいことにいろんなお話をいただくのでね、脚本を読んでから決めたり、どなたが演出なのかを聞いて決めていますね。この劇作家とは、今まで一緒に組んだことはないけど、やったら面白そうだとか、これはなにかあるかもしれないなとか、僕の勘が働くんですよ。今まで9割が当たっていまして、新しい出会いに結びついていますね。去年還暦を迎えましたが、体が動く限りは現役だと思っていますから、これからの10年15年の間に、どれだけの人とどれだけいい芝居ができるかが楽しみでもありますね。
鳴門
落語もなさっていると聞いたのですが。
風間
個人的な趣味から始まって、最近ではいろんな師匠方から一緒にやらないかと誘いを受けるようになりました。柳家喬太郎師匠、花緑師匠、志の輔師匠、林家たい平師匠、2代目三平師匠、春風亭昇太師匠、三遊亭歌之介師匠、三遊亭圓歌師匠、林家木久扇師匠、ケーシー高峰師匠、とにかくいろんな師匠方といろんなところで落語をやらして貰っておりまして、まさか趣味がこんなに広がるとは思わなかったですね。
鳴門
位置づけとしては趣味なんですか?
風間
趣味ですね。プロじゃないんですけども、プロも一応認めてくれている感じでしょうか。僕がやるのは古典落語なんですが、変にいじくって生意気なことをしたらきっと嫌われたのかもしれないんですが、そういうことをせずに、きちっと語るというスタイルなので師匠方も、風間は認めてやろうというようなお墨付きを頂けたんでしょうね。もちろん、噺の枕は自分で作らなければならないんですけどね。僕は古今亭志ん生・志ん朝が大好きで、13覚えた噺のほとんどがそのおふたりのものなんです。
鳴門
私も志ん生をよく聞いていたんですが、『火焔太鼓』なんかは印象的ですね。
風間
『火焔太鼓』は僕も人前では一番多くやっているんじゃないですかね。『居残り佐平次』とか、『夢の酒』もよくレパートリーに挙げますね。他には『粗忽長屋』・『湯屋番』とか。
鳴門
よくそんな難しい噺ができますね。普通、噺家だってやるのにためらいますよ。
風間
それは素人だからできるんですよ。怖いもの知らずで(笑)。
鳴門
いつから落語を始められたんですか?
風間
十何年前に、舞台で落語家の役をやったんですよ。『すててこてこてこ』って言う芝居で、怪談噺の名人円朝とその弟子の円遊の噺で、寄せでステテコ踊りをやったというステテコの円遊の役をやりまして、それが始まりです。いつか人前でやりたいなと思っていたら、なんと声をかけてくれる人がいるんですね。今、脂ののりきっている談志の弟子で立川談春という噺家なんですけど、10年前に僕の独演会でやりませんかって言われてね。、そこでえらく褒められましてね。僕は褒められたら、図に乗るほうなんですよ。豚もおだてりゃってね(笑)。
鳴門
とはおっしゃっても、独演会やテレビなんかで披露される腕前なんですからすごいですよね。
風間
これでも大変なんですよ。僕は師匠がいませんからね。これやりたいなって思っても今は全部CDじゃないですか。それをカセットテープに移して全部文章に起こしてゆくんです。志ん生は何を言っているか分かんないとこがあるんですね、それを息子の志ん朝で確認をしたりね。まず、書いて覚えてそれを読んでテープに吹き込んで、自分の声を聞いて覚えるようにしています。
鳴門
ひとつのネタを覚えるのにどのくらいかかるんですか?
風間
完全に覚えるまで4〜5日かかりますね。でも落語は覚えたらおしまいじゃないんですよね。人前で噺さなきゃ上手くならないんです。
鳴門
仕草ってありますよね。あれはどのようにしているんですか?
風間
わからないところは花禄師匠に聞いたりね。後はDVDを見て覚えますね。
鳴門
覚えるコツなどはあるんですか?
風間
いいえ、機械的に覚えるしかないですね。今日の様な芝居なら稽古をしながら台本を持って相手とのやり取りの中で自然とセリフが身に付いてゆくんですが、落語はひとりですから、覚えない事には稽古にならないですからね。汚い話ですが、話の枕から40分くらいの大ネタでしたら、便所にはいってしゃべりはじめると、40分間出て来られないですからね。とっくにうんこは終わっているんですけど、話が終わってないからね(笑)。
鳴門
趣味といいながら、そこまで極められているのというのは芸のひとつということですよね。
風間
そうですね。これだけの数の公演をしていると、素人ですからなんて言っていられなくなりましたからね。それなりの目でお客さんも見に来られますからね。どっかで納得していただかないとね。趣味だからあんなもんで許してやるかとかというレベルではいかなくなってしまった訳ですよ。
鳴門
ところで、朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』が始まりましたが、風間さんは水木しげるの父親役を演じられておりますよね。
風間
ええ、前回は徳島が舞台の『ウエルカメ』でしたよね。今回の『ゲゲゲの女房』は、実在の人間達のお話ですし、夫婦で戦後を戦っていく話ですから、年輩の方はご自身の戦後史と重ね合わせて見ていただけるんじゃないでしょうか。いわゆるテレビ小説の本道に戻ったんじゃないかなという気がしています。父親像は水木しげるさん自身がマンガで『水木しげる伝』という自伝を書いており、そこに出てくる親父そのものなんですね。英語塾をやっても、映画館をやっても失敗したり、どちらかというと落語や歌舞伎や文楽や映画とかが好きな人なんですね。母親役を竹下景子さんがやっていまして、『イカル』ってあだ名でしょっちゅう怒っていて、僕や息子のお尻をひっぱたいたりして、とにかく捲し立てるという役どころです。親父は案外呑気なんで、その二人のコンビが笑いを誘うという楽しい役ですね。
鳴門
お父さん役のお話を受けられた時は、やはり勘が働いたのですか?
風間
NHKから水木しげるの洒脱なお父さんの役をやってほしいって言われた時、僕にぴったりだと思いました。(笑)。
鳴門
最後に、私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
風間
市民劇場に出させてもらうのは、9年ぶりなんですね。鑑賞会のような団体は貴重な存在だと思います。演目を選ぶのも大変なことだと思いますが、いいお芝居をたくさん呼んで盛り上げてほしいと思います。僕も呼んでくだされば喜んでこっちに来ますので(笑)。これからも活動の灯を絶やさずがんばってください。
風間杜夫さんとインタビューア

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nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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