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高橋佑一郎さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問36

前進座公演「銃口」鳴門例会(2009年7月13日)で“北森竜太”役をされる高橋佑一郎さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

高橋佑一郎さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
劇団前進座の皆様にきていただいたのは、今回で8回目だそうですね。高橋さんご自身は鳴門へ来られたことは?
高橋(敬称略)
確か初めて来たのは『鳴神/素襖落』でした。ちょうど水不足の時だったので94年だったと思います。
鳴門
では、前進座さんが、初めて鳴門で公演された作品で来られているんですね。
高橋
そうですね。次に来たのは、『雪祭五人三番叟/芝浜の革財布』だったと思います。鳴門へはそれ以来になりますね。
鳴門
では約10年ぶりの鳴門になるんですね。まず作品についてお聞きしたいのですが、以前、山崎辰三郎さんとお話した際に「前進座さんは現代劇をされないんですか」とお尋ねしたところ、「そんなことはないですよ」とおっしゃられたのを憶えているのですが、今回の『銃口』は現代劇ですね。三浦綾子さんの長編小説を舞台化するのは、大変だったのではないですか?
高橋
そうですね。以前に三浦綾子さんの『母』を巡演している時に、三浦綾子さんの出身の旭川で公演することがありました。もう、その時既に、実行委員会では、次の作品は『銃口』だと言う思いがあったんです。残念ながら、舞台化するまでに綾子先生は亡くなられ、2003年に舞台化が実現いたしました。ご存じの通り『銃口』は上下2巻の長編小説です。最初に貰った台本がすごく厚く、通し稽古では約5時間もかかる程でした。本来なら、脚本家が魂を込めて書き上げた脚本を、一言一句間違わずに演出の方と僕らで芝居に仕上げて行くものなのでしょうけど、2週間ある稽古期間の中で1週間は何処を削るかを、役者と演出・脚本家とで相談しながら台本の手直しをする状況でした。これは、役者全員が綾子先生の小説を熟読し、全員が「綾子先生は何を伝えたかったのか」を理解していたからこそ、出来たことだと思います。ですから、『銃口』は役者や脚本家・演出家・スッタフの情熱で出来上がっている作品な訳です。また、未だに進化し続けている作品でもあるんです。演出家には「この作品は役者の情熱で出来ている作品だ」とよく言われるんですが、いつも新鮮な気持ちで、絶えず情熱を持って舞台に臨んでいかないといけない作品だと言うのは、出演している僕らが一番感じます。そして、その情熱のエネルギー源は客席のみなさんなのです。舞台に立っていると客席のみなさんの呼吸がひしひしと伝わってくるんです。きっと、みなさんは、知らず知らずの間に作品に引き込まれ、北森竜太となって物語を追体験していくそんな舞台になっています。
鳴門
初演の時とは、内容も変わっているらしいですね。
高橋
初演からまるまるカットしたシーンはありますが、大きくは変わることはなく、常にマイナーチェンジをしている形ですね。ただ、初演から観続けてくれている方からは、「また変わりましたね、初演とは違う作品になりましたね」と言われますね。
鳴門
大人が子供のセリフを話す『コロス』と言う、独特な演出方法を取り入れられておりますよね。
高橋
ええ、特に幕開きから授業のシーンなので、みなさんは違和感を感じられるかも知れませんね。この作品を作るにあたり最初に困ったことが、子供をどうするかでした。現実問題として子供を舞台に連れては来られないですからね。それを解消する手段が『コロス』でした。みなさんに受け入れてもらえるかどうか演出家も僕らも不安でしたが、お客様から意外な反応をいただいたことがあります。ご覧になられれば分かると思いますが、役者は大人の役を演じた衣装のまま、子供の役を演じているんです。ですから、軍国主義の中暴力をふるう刑事や上官が、無邪気な子供を演じていることもある訳ですよ。それを観たある人は、「教育であのような大人になってしまった人達も、昔は素直な子供だったんだね」と言われました。僕らが意図しなかったところまで掘り下げて、僕たちの芝居を受け止めてくれたんです。これは、すごいことですよね。
鳴門
無垢な心が教育によって変わってしまうと言うことですよね。今の時代にも通じることですね。
高橋
そうなんです。そういうことを教わったのは客席から観ているみなさんからですからね。だからこそ、芝居は僕らが一方的に押し付けるのではなく、客席のみなさんと一緒に作ってきたと言う想いがあるんです。僕なんかあの時代に生きていないですけど、会員のみなさんにはあの時代を生きている方もいらっしゃいますし、その方のお話から得たものは、かなり大きなものがありますね。
鳴門
そうして、お客様と共に日々新しい『銃口』ができあがって行くのですね。今回、高橋さんは教師役ですが、実際にモデルにされた先生はいらっしゃいますか?
高橋
たくさんの恩師がいましたけど、竜太が坂部先生にあこがれて教師を目指したように、やはり竜太像を創って行く上でのモデルは、坂部先生のような教師ですね。
鳴門
家族愛・純愛・師弟愛・友情など、私達に向けてのメッセージがたくさん込められた感動作品と聞いておりますが、高橋さんの一番伝えたいメッセージがありましたらお教えください。
高橋
いっぱいありますが、ひとつ取り上げるなら坂部先生の「時代を見つめる目を持つんだ」と言うセリフです。今でも通じると思うんですね。時代を見つめると言うことイコール政治であったり教育であったり、いろんなことに関心を持つと言うことだと思います。あの時代は一歩間違えたら命を落とすこともあり得た訳ですが、果たして、現代ではそんなことは無いと言い切れるのかと言うのがテーマですね。みんなが時代から目を反らしていれば、いつの間にか時代は都合のいい人達によって流されてしまう、まさに竜太のように翻弄されていく危険性がすぐ近くに潜んでいることを気づいてほしいですね。ニュースにしても視点が変わると全然違う記事になってしまうし、教科書だって改訂されていきますし、広い目で見つめていかなければと感じますね。
鳴門
お話は変わって、高橋さんご自身についてお伺いしたいと思います。この世界に入ったきっかけは何ですか?
高橋
高校時代には演劇部に入っていましたけど、たいして本格的に活動していなかったんですね。長崎市公会堂で本物の生の舞台を観る機会があったのが最初ですね。
鳴門
どんな舞台ですか?
高橋
劇団四季の保坂知寿さんの舞台を観てすごいなと思ったんです。人がテレビではない空間の中で、客席の空気を巻き込んで演じているのを観て、涙がぽろぽろ流れてきたんです。
鳴門
でも、四季には入らなかったんですね(笑)
高橋
四季は好きだったんですよ。でも、僕は体が硬いし、踊れないし、歌もたいして上手くないしと思うと……。(笑)それに、もともと僕は歴史に興味がありましたから。たまたま高校演劇の時に井上ひさしさんの『十一ぴきのネコ』の作品で女形を勉強しなければならなくなった頃に、猿之助さんの松竹大歌舞伎を長崎市公会堂で観る機会があり、歌舞伎って面白いなと思い始めるようになりました。歌舞伎の世界に行くには、国立養成所に入るしかなかったんですが、僕の時はちょうど募集していなくて。どうしようかと思っている時に演劇部の顧問の先生が、「歌舞伎もやるし、時代劇もやるし、現代劇もやる前進座という劇団があるぞ」と紹介してくださったのが始まりです。
鳴門
では、その先生の勧めがなければ前進座へ入られることは無かったということですか?
高橋
そうですね。僕は前進座のことは全然知らなかったですからね。あれから16年経ちますが、今、僕の母校の後輩が2人前進座に入ってきているんです。その内の1人は竜太の弟の保志役の竹下雅臣がそうです。市民劇場で前進座の舞台を観て決めたそうです。
鳴門
もし、俳優にならなければどんな職業に就いていましたか?
高橋
高校時代には芝居と同時に音楽もやっていましたので、音楽に関係する仕事をしていたかも知れないですね。
鳴門
音楽が好きというのはミュージカルの影響ですか?
高橋
いえ、基本的にハードロックが好きでしたね。
鳴門
お料理もされるんですよね。
高橋
ええ、長期で東京にいる時は毎日自分で作っていますね。
鳴門
どんなお料理をされるんですか?
高橋
僕はワインが好きなので、それに合うイタリアンが多いです。でも、特に何を作るというのではなく、家にある食材をアレンジして作ったりしています。
鳴門
劇団の皆さんやお友達にお料理の腕を振るわれることもあるんですか?
高橋
仲間とワイン会を開いたりする時があるので、その時は簡単なものを作りますね。
鳴門
お料理ができる男の人って素敵ですね。ところで、高橋さんがこれから挑戦したいことや、これからの活動等をお聞かせください。
高橋
そうですね、できるなら日常的な会話劇をやってみたいなと思いますね。『銃口』も現代劇ですが、どちらかと言うと近代劇なので、いつかリアルな日常を描いた芝居を作ってみたいと思います。あと、もう一つは昔から好きだったシェークスピアをしてみたいですね。
鳴門
最後に、私たちのような演劇鑑賞会の活動について、考えられていることがあればお聞かせください。また、鳴門市民劇場の会員に一言メッセージをお願いいたします。
高橋
今日、僕はわくわくしながら鳴門に来たんです。なぜかと言うと、市民劇場の会員さんは僕にとって家族のように思えるからです。僕は今回たまたま10年くらい徳島に来るのに間が空いてしまったんですが、前進座としては2〜3年に1回は来ていると思います。1回限りで終わるのではなく、市民劇場のみなさんは同じ劇団、同じ役者をずっと見続けてくださる人達だと思うんです。それは普通ではあり得ないことですよね。ずっと見続けてくれることが僕ら役者にとってどんなに励みになるか。本当に嬉しいし、ありがたいことだと思っています。こらからも、みなさんと一緒に舞台作りをしながら、より良い作品を観ていただけるよう頑張っていきたいと思っています。
高橋佑一郎さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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