テアトル・エコー 演劇制作部 白川浩司さん講演会

笑ってください!『ルームサービス』

2006年12月9日13:35〜14:35 鳴門市老人福祉センター3階

1. はじめに

白川浩司さん

  鳴門へは2000年に「ら抜きの殺意」という作品で来ました。劇団をご存知の方も全く知らないという方もいると思いますので、自己紹介から始めます。テアトル・エコーという喜劇専門の劇団で演劇制作をしています。サルトル研究で有名な故白井浩司先生と名前が似ていて気に入っています。

2. テアトル・エコーの歴史

  戦前にあったテアトル・コメディの俳優、北沢彪さんのお家で「やまびこ会」という朗読会として1950年にスタートしました。若者が集まり朗読の勉強をしていたのですが、そのうちにメンバーが増えて劇団を作るろうとなり、「テアトル・コメディ」という名前と「やまびこ会」の「やまびこ」を英訳した「エコー」をつないで、「テアトル・エコー」と北沢さんが命名して下さいました。活動の間には解散の危機もあり、1957年、その危機のときに、熊倉一雄が10数名の仲間を連れてやってきて再建することになりました。そこから数えて今年で50周年です。

  テアトル・エコーの名が最初に広まったのは、1970年代。熊倉一雄が、「ひょっこりひょうたん島」の作者井上ひさし氏にホンを書いてくれるように頼み、その後しばらく井上ひさし氏は劇団に所属してたくさん書いてくれました。その作品で有名になりました。

  その後1980年代は、今回の「ルームサービス」の翻訳演出をしている酒井洋子さんが、アメリカから帰り、ニール・サイモンの作品がおもしろいからやろうよと言い出し、連続上演をして、評価されました。

3. 「制作」という仕事

  僕がやっている「制作」という仕事は、一言で説明出来ない仕事です。作品の企画からスタッフィング、キャスティング、劇場押さえ等とすべてを考え手配します。チラシをつくり、もちろんおカネのことも。チケットの前売り、いろいろな電話に応じたり、チラシをもって宣伝に行きます。公演当日は、もぎりにさまざまな作業、開演すれば劇が見られるかといえばそうではなく、その間におカネを数えたり…。終演後はお客を見送り、打ち上げをして…そのあともまた、請求書の山を前にあたまを抱える仕事も残っています。一言で制作の仕事を説明出来ませんが、一番中心にあるのは、目の前の人にチラシを手渡し芝居の話をし、劇場に来てもらう努力をしています。

  よく「制作」と「製作」の違いを尋ねられますが、いまは特に漢字の差での違いはありません。劇団ごとの伝統でどちらの漢字を使うかを決めているようです。大切なのは制作者として作品とどう関わっているかの仕事の中身だと思っています。

4. 「ルームサービス」について

白川浩司さん

  2004年に東京の俳優座劇場で初演した作品です。その年に文化庁芸術大賞を受賞しました。翌年は仲代達矢さんと奈良岡朋子さんの「ドライビングミスデイジー」が受賞しています。四国の皆さんは2008年にその「ドライビングミスデイジー」を観られるようですから、2年続けて文化庁芸術祭大賞作品を観ることになりますね。

  なぜこの作品を2004年に上演することになったか。実は12〜13年前から企画に入っていたのです。酒井洋子さんから提案されていたのですが、「今やる意味が?」というようなことで積み残しになっていました。「ルームサービス」は1937年のブロードウェイが舞台。この年は戦争のはざまで灰色の時代でした。そんな中で500回のロングランを成し遂げた作品です。つらい世の中で愛された傑作喜劇。2004年、やはり世の中が少しおかしくなってきていると感じ、こんな時代だから、「今やろう、心の底から笑ってもらおう」ということになったわけです。

  お話は、1930年代のブロードウェイにあるとあるホテルのツインルームが舞台です。ホテル名は「ホワイトウェイホテル」。公演のとき舞台装置をよく見ていただきたいのですが、舞台装置の上の方に「看板」があってちゃんと「ホワイトウェイホテル」と書いてあります。当時ブロードウェイは、「ホワイトウェイ」と呼ばれていました。「ミルキーウェイ」は天の川という意味ですけど、当時、長引く不景気の中で、世の中は真っ暗でも、ここにくれば明るいという意味だったのでしょうか。実際ブロードウェイの電灯が立っていてそれが白く浮き立って明るかったようです。また、ホテルの中に「劇場」があり、お客は劇を楽しみそのままそこで泊まるという感じでした。

  あらすじは単純です。貧乏な役者一座がホテルで新作の稽古をしているんですが、長逗留で、ツケがどんどんたまっていきます。スポンサーをみつければ成功間違いなしと思っているのだけどもなかなかうまくいかない。ある日、ホテルの重役がやってきて、いよいよ彼らの追い出し作戦にかかります。一座は、あと1日あればなんとかお金が入って滞在続けられると、ウソをついてごまかそうとしますが、それがバレてドタバタに。おなかがすくので「ルームサービス」を頼むのですが、そのうちそれも打ち切られてしまいます。そういう繰り返しなんですが、最後は、スポンサーがみつかり、ホテルに了承してもらって舞台の幕を上げることができます。ところがそこでまたひと騒動。実は正確にお金が入るのではなくなったため、それがバレて、公演が中止の危機に…。でも最後の最後は、ホテルの支配人が「すばらしい劇」と言ってくれてハッピーエンドになります。コメディですので、是非台詞のやりとりの面白さを味わってほしいと思います。

  この作品が当時のアメリカでロングランを評した理由は、ただおかしくて、笑って、元気をもらえた、という以外に、登場人物の「役者」たちが苦しくてもなんとかがんばり公演の幕をあげたいという夢を持ち続けること、苦境をみんなの知恵で打破して成功にもっていくところ、そういうところに共感をもたれたためではないかと思います。

  出演者の話をしましょう。プロデューサー役は安原義人。彼を中心に話が展開します。上院議員役の熊倉一雄は来年1月で80歳になります。沖恂一郎や納屋悟朗も、熊倉より2〜3歳年下というくらいで…。代理人を演じる瀬下和久にしても75歳、ホテル重役ワグナー役の沢りつおが71歳です。楽しんでいただきたいことは、このように、テアトルエコーが50年コメディに徹してきた、それを引っ張ってきた役者がこのように全員出ていることです。熊倉一雄を筆頭に、みんな舞台に命がけで立っています。あ、命がけで死なれちゃこまりますけど(笑)。真剣勝負で「芝居は面白い!」と観客に笑ってほしい、その一念でやっています。元気でやっていけるのは「次」のスケジュールが決まっているからでしょう。

  「ルームサービス」はこの2007年の四国が初めての再演ということになります。この月曜から稽古が始まりましたが、全員正月返上でがんばる予定です。

  「笑ってください」、それしかないですね。喜劇は、観客が笑ってくれればくれるほど役者もノッてきます。舞台と観客の一体感が欠かせません。どうか笑いをリードしてください。難しいテーマやストーリー展開はないので、笑いで台詞がかき消されるくらいになっても、全く支障はないですから(笑)。そのほうが役者も嬉しい。笑ってほしいから真剣にやっています。

  「ルームサービス」のみどころといえば…。これはテアトル・エコーのコメディの集大成です。が、劇団の代表作になれるか否かというのは、どれだけのステージ数をやったかどうかにかかってくるところがあります。「ら抜きの殺意」に負けない作品にするには、もちろん「いっぱい笑えた」ということでもいいし、「あの暗い時代に人々に共鳴を与えた」という深い見方をしてくださってもいいですが、役者はすごくまじめにとりくんでいますから、客席からしっかり盛り上げてください。

白川浩司さん

  最後に「ルームサービス」のポスターについてもお話しましょうか。これはこの再演のために新しくしました。絵を描いてくれた人は、「ルームサービス」の初演を観てくれているソリマチアキラさんというイラストレーターです。多くのラフスケッチをもらって、最終的にこれを選びました。よくみていただくと下の方に、「GODSPEED」という台本が描かれています。劇中劇があるので、その台本が描かれています。日本語では「お達者で」というタイトルですが。

5. 演劇鑑賞会とのかかわり

  つい先日に東京で新作上演をしました。熊倉や沖も出演しました。劇場でこの「ルームサービス」(四国巡演)のポスターを貼ったところ、神奈川県在住のお客さんで、「四国に行くことがあり観たいのでスケジュールを教えて」という方がいて、これは「鑑賞会」の巡演であることを説明して横須賀にも鑑賞会があることを教えてあげました。

  僕達が1本の新作を上演できるのは、実は、こういう鑑賞会が全国にあって巡演ができるからです。正直言って、財政的にたいへん助かるのです。全国巡演して、そのお金でまた新作を1本作ることができます。今回再演をスタートさせる四国では是非成功させたいと思っています。

  鑑賞会の皆さんの側でも、たとえば東京で観るなら5000円〜7000円でチケットを買って観てもそれで終わりですが、例会で観る場合には、まず運営サークル会をやって、新会員に声をかけるなら作品を知らないといけないので作品にどんどんのめりこんでいって、それで作品のよさを知り、だんだん愛おしくなってくる、そんな感じではないでしょうか。自分が担当する作品が一番よく思えたりしませんか?「ルームサービス」にも是非前のめりになって、はまってください。「楽しんだもの勝ち」ですよ。

<質問コーナー>

Q:
文化庁芸術大賞を「喜劇」作品が受けるのは珍しいことではないのですか?どういったことが評価されたのでしょうか。
A:
僕達もわからないんですが(笑)。そうですね、古い作品をこのように正統派喜劇として現代によみがえらせたことが評価されているようです。ずっと続けてきたことの評価でしょうか。この受賞で楯と賞金をもらったのですが、受賞パーティでのんだらすぐになくなっちゃいました(笑)。
 
Q:
人を笑わせることはなかなか難しいと思うのですが、役者さんたちはもともと、普段からも「面白い」方達ですか?
A:
いえ、普段はいたってまじめで、地味な人たちですねえ。だからプライベートはあんまり期待しないで下さいね。
 
Q:
劇団として自慢できる作品は?
A:
30年以上も前になるのですが、井上ひさし氏の「11ぴきのネコ」は圧倒的な評価を得た作品ですし、今でも「またやってほしい」といわれるほどです。それから、ニール・サイモンの「サンシャインボーイズ」、そして「正しい殺し方教えます」「馬かける男たち」かな。あと「ら抜きの殺意」もですね。でもこう並べると、代表作というのはすべて鑑賞会の例会で全国にいっているものばかりです。つまり回数を重ねていくことでいい作品になっていくということでしょうか。「ルームサービス」も芸術大賞はとりましたが、やはり四国だけではなく全国を巡演して成長させたいと思います。
 
Q:
全国を巡演する旅の途中で、楽しみは?
A:
食べること、飲むこと、話すこと(笑)。でも、一番は、次の日の舞台を中心に考えることです。1公演終われば振り返りつつみんなで話します。重ねていくことでよくなっていきます。また、うちの役者たちは「観客」が大好きなんですよ。いつも始まる前に、舞台の隙間から客席を覗いて、どんな客がいるだの多いだの少ないだの….楽しんでますよ。
 
Q:
テアトル・エコーは翻訳ものが多いように思いますが、井上ひさしさんの作品もやっているんですね。これから日本の上質なコメディをやる予定は?
A:
本当は日本のものをやりたいんです。でも戯曲を読むと海外のものが面白い作品があって…。今イチオシは、井上ひさし氏の弟子の小川未玲さんですね。2007年11月にその小川さんの新作をやります。どうぞ期待して下さい。
客席 客席

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