佐藤志穂さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問20

劇団スイセイ・ミュージカル公演「夢があるから!」鳴門例会(2006年7月14日)に“スザンヌ・ハーバー”役で出演される佐藤志穂さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

佐藤志穂さん
 
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
お忙しいところどうもありがとうございます。鳴門は初めてですか?
佐藤(敬称略)
初めてではないんです。以前の劇団のときお邪魔したことがあります。それと、文化庁の移動芸術祭で来ました。
鳴門
鳴門の印象はいかがですか?
佐藤
海が大好きなんです。私は日本海の生まれなんですが、こちらの海は波がなくてすごい憧れというか…、すごくすごく好きですね。
鳴門
鳴門の渦はご覧になりましたか?
佐藤
見ました!何回か来てるので。橋を渡るときにみんなで見ました。
 
鳴門
さて、このミュージカル「夢があるから!」、みんなでお待ちしていました!「ミュージカルイコール楽しい舞台」というイメージがあります。佐藤さんのミュージカルに対する思いはどんなものでしょうか?どんなきっかけでミュージカルの世界に入られたのですか?
佐藤
最初は演劇自体にも興味があったんです。で、まず中学生から演劇クラブに入って…。私は山形県酒田市出身なんですが、高校生のとき演劇部の顧問の先生が、その土地の演劇鑑賞会の演劇鑑賞会「例会」に連れていってくださったんです。地元で芝居が観れるってのはその方法しかなかったんですね。テレビに出ていた俳優さんも出ていたんですけど、テレビで見るより生きてる「気」が伝わってくる、息遣いが伝わってくる、というか。大人の方が一生懸命生きている姿を見た気がしました。高校生のときは女子高で、ほんとに学校と家を往復する生活しかしてなくて。演劇を観て、「先生」以外の大人を初めて見た思いでした。それまではどう生きようかなんて考えてなかったんですけど、自分はどうやって生きるんだろうって、そこから考え始めました。またそれまでは内向的だったんですが、外を見れるようになったり、人と話せるようになったりしましたね。将来はいろいろ…たとえば教師になろうとかも思ったりしたんですが、結局その後観た地元のアマチュアのミュージカル劇団がこの世界に入るきっかけになりました。地元ですから、OLの方、会社員の方、農業や商業の方が一杯いて…。その方たちが最後カーテンコールで汗を流して「ヤッタ!」って感じでテーマ曲を歌ってる姿を見て「ミュージカル、これだ!」って思ったんですよ。それからはミュージカルへのと思いが強くなって。自分は、もともと編み物をしたり本を読んだりする方が好きなタイプなもので、ミュージカルで流す汗とかにすごい憧れちゃって、もっといっぱい観たいという理由もあって、それで東京に来たんです。
 
鳴門
徳島の例会でも、以前音楽座のミュージカル「シャボン玉とんだ宇宙までとんだ」があったんですが。そのときはこちらに来られてないですか?
佐藤
こちらの方はきていませんが「シャボン玉」の初演が私の初舞台なんです。
鳴門
そのときの振付が中川久美先生ですよね。
佐藤
そうです。
鳴門
やっぱり初舞台というのは印象深いですか?
佐藤
東京に、家出同然に出てきたんです。やっぱり両親は大反対で。そうしてめぐり合ったのが「シャボン玉」でした。初演で右も左もわからない、自分自身も初舞台でオリーの役をいただいて、周りは、「どういうことだ?」って感じがありましたが(笑)…。私の役は主役の方の“生命体”だったので、出てないときも出てるときも、ずっとそのストーリーを袖から見てたっていうのが…、それがすごく印象に残っていることです。「自分がどう演じるか」ではなく、ずっとその自分の生命体が入った存在を観ていたのを覚えています。死んでいる宇宙人の役で最後に生き返るので、「これだけみんな、2時間半がんばってきて、最後に幕を下ろすのは、お前か…。」みたいなことを言われて(笑)、新人なりに責任を感じてました。
鳴門
最後のあのシャボン玉、よかったですね〜。
 
鳴門
今回「夢があるから!」で佐藤さんご自身が演じられるのは、主人公久美さんが舞台に憧れるきっかけとなったスザンヌですが、役を通してどんなメッセージを伝えたいですか?お好きな場面とかはありますか?
佐藤
一幕の最後で健が語っている部分なんですけど。スザンヌは舞台に立っているけどいろんなことがあって立てなくなる、一方久美は振付師の夢を持ちながらまずは役者として舞台に立とうとしている。同じ夢を持っても環境の違いで実現されたりされなかったりする。スザンヌも久美も、恵まれているように見えるけども、いろんな外敵や障害がある、でもそれに絶対負けない強さを持っている、そこを大切にしたいです。東京で生まれて小さいときからピアノもバレエも、という恵まれた人もたくさんいる、でも何もやってこなかった人はそれだけ障害があるし、田舎から東京に出れば出るで、家賃や生活のためにアルバイトしたり演劇以外のことに時間を使わなければならなかったりいろんなことがあるじゃないですか。でもそれによって夢がくじけたり左右されないような強さっていうところが大事で。スザンヌの場合は、もっと大きな、戦争で父を亡くしたってこともあるんですが、そういった外的な要因に負けない心の強さっていうところが、一番このスザンヌの役で大事なところではないでしょうか。どこを切っても、台詞は全部重要なんですが。そうですね、久美と最後に会ったときに、久美が私の口癖を口にするんですね。そのときに、「どんなことがあってもあきらめない」ってことを2人で言うんですが、そこが一番共感できるというか。言っていて私自身も励まされるというか。
 
鳴門
「平和でなければ夢はもてない」というのも印象的です。スザンヌは戦争で父をなくしていますよね。
佐藤
戦争ってほんとに、お互いがそういう目にあうでしょう。巻き込まれたといっている人も、別の国にとっては加害者だったり。そういうことで、外的なことによって、夢をもう絶対あきらめないといけないこともあったりするじゃないですか、命を落としたり…。
だから、今、大切に生きていかなければならない。この時代に、それをもっともっと口に出して言えるようになったらいいと。「平和でなければ夢はもてない」っていうのはまさしくそのとおりで、だからこそ、平和な世界を望みたいってところだと思うんですよね。「誰もが夢をみれる世界」をですね。
 
鳴門
ミュージカルの舞台は普通の舞台以上に体力も表現力も必要だと思います。特に歌声のためのトレーニングとか、気をつけてらっしゃることはありますか?
佐藤
歌は、台詞を言うときとは身体の使い方とかが変わってきます。
鳴門
そこが一番知りたいところなんです。私は現職中、子供たちに国語の童話の本を暗誦させようとしたことがあったんですが、それがなかなかできないんです。でも、音楽劇にして“ふし”をつけたら、子供たちはすごく覚えるんです。ミュージカルの世界はそれが生命力だと思います。佐藤さんがおっしゃったとおり「台詞と歌は違う」んですよね。その表現力の工夫をきかせていただければ嬉しく思います。
佐藤
なるべく….歌は「芝居のように歌える」ようにしています。歌を芝居に近づけるのと芝居を歌に近づけるのと、両方あるんですけど…。両方大事ですね。
鳴門
ミュージカルだから出せる魅力ってのは大きいと思います。
佐藤
芝居であれば、「ここで台詞を言って、あとは客席の皆さんが想像する部分です」っていって、その“表情”を残してフェードアウト…とかなんですが、ミュージカルだとその“表情”から歌に入って、内的なところを一杯伝えられるじゃないですか、そういうことが、つまり「音楽になる」というところが、強みですけど。
鳴門
内なるものを音楽で表現するわけですね。歌だったら歌だけですもんね。やはり、ストーリーの中で流れていくというのが素晴らしいですね。
佐藤
中国公演もしたんですが、そのとき、字幕は出るんですが、やはり音楽だとお客さんはすごくよく覚えて帰ってくれる。音楽だと、言葉がわからなくても伝わるということですね。
鳴門
今回の作品のテーマ曲、私たちこの間一生懸命練習しました。本番で上手に歌えるでしょうか(笑)。歌の楽しみとお芝居の楽しみとが合致したのがミュージカルだと思います。ほんとに楽しみにしています。
鳴門
高校時代の先生と舞台の出会いがここまで佐藤さんをミュージカルにひきつけたっていうこと、出逢いって、素晴らしいですね。テレビでは味わえない。私もカーテンコールが大好きです。それで観続けています。
鳴門
まして、みんなで一緒に歌えた!ということがあればすごい楽しみになります。今日は本当に楽しみ。
 
佐藤
高校生のとき例会に行って初めて舞台を観た、そして舞台に立った。例会を続けていく、みんなと一緒に作り上げていく、そのたびにどんどん好きになっていく。そういうことのないまま東京にいると、私たちは生活に追われ、家賃に追われ、アルバイトに追われるじゃないですか(笑)。でも市民劇場さんと一緒に作品を作り上げるときっていうのは、特にお芝居だけに集中できる部分、1ヵ月間お芝居のことを考えられる部分っていうのは、すごく大事です。私にも、若いときにそれがあったからよかった。そのときには、「とにかく劇場、早く入れてください」って言って、舞台に立って歌ったりとか、稽古したりとか。やはりなかなか歌わせてもらえないですからね(笑)。ほんとにそういうことがないと若手は育っていけない。
鳴門
1ヵ月半、旅続きでたいへんだと思います。健康維持や体調管理についてどうされていますか?それに佐藤さんはスタイルがよくてお綺麗ですよね。秘訣は?
佐藤
気をつけているのは体温調節です。なにか必ず持って、脱いだり着たり。身体を冷やさないようにとか。冷たいものを取らないとか。土地が変わって慣れないことはそれくらいなので。あとはよく食べていますよ。日々の食事ですね。
鳴門
旅の間は食事も思うようにならないでしょうから、どうぞ身体に気をつけてください。
佐藤
「夢があるから!」がやっと例会になりました。最初スイセイミュージカルは、1995年のときにはプロデュースだったんですが、作品を成長させたいという思いから1998年に劇団として始まったんです。「夢があるから!」初演のときに四国の鑑賞会の方に観ていただいて、いろいろアドバイスもいただいて、やっとここまで来れたんです。
鳴門
こちらも、この作品を四国へ四国へ、と一番声をかけてくださったのが佐藤さんと聞いています。
佐藤
皆さんのアドバイスをいただいて作品も成長できました。まだまだこれで満足したわけではなく、これからも成長していきたく思っています。
 
鳴門
これからどんな方向へ?どんな夢がありますか?
佐藤
おもしろい舞台づくりをとにかくやっていくと思うんですよ。ただ、うちの劇団では「ミーティングフェスティバルウィーク」というのをやっているんですが、去年のそのミーティングのとき、おもしろい舞台を創るのはもちろんなんだけども、今だから必要なもの、大切なものはなんだろうということを考えて、基本理念を決めたんです。そして、基本理念の中の「平和を希求する」に基づいたものを創ろうと。ただ、重くならずに…。今日の二幕を観ていただいたらわかると思うんですが、面白い…というか。
鳴門
でもこの作品、ただおもしろいだけではないですね。最後には、人種差別というか重い部分も絡めていて、久美とスザンヌが手を取り合って夢を追いかけてというところで終わりますね。
 
鳴門
今回、先日のワークショップでも、劇団の方ととても仲良くなり、わたしたちの組織はかなり年齢層高いんですが、一緒にゲームしましょうとか言ってくださって盛り上がりました。吉田要士さんのリードで楽しかったですよ。劇団と一緒になった気がしました。すばらしい劇団だと思いました。ビデオメッセージは運営サークル会でも見ました。
 
鳴門
鳴門市民劇場の会員にメッセージをお願いできますでしょうか。
佐藤
皆様と初めてお会いして8年です。まだ、あのときのご挨拶での「夢」が実現したことの実感がわかないんですが、改めてありがとうございますと申し上げたいです。鳴門のみなさんがこの作品上演実現のためにがんばってくださったと聞いていますので、この例会を成功させて、そして東京に帰っても、鳴門の海と皆さんのこの笑顔が…がんばっているんだ、ということを胸に、また来られることを夢に頑張りたいと思います。これからも末永くよろしくお願いします。鑑賞会は、会員数の問題とかいろいろたいへんですが、鑑賞会がなければ日本の演劇は育たなかったと思うんです。生の舞台は大事で。日本では新鮮なものには飛びつくけども長く続けていけないというところがあります。私は鑑賞会があるからこそ、私が初めて観た舞台があるっていつも思っています。鑑賞会は生で、生きている人間の素晴らしさを伝えられる場所なんです。世界で他の国にはない、ものすごく素敵なことなので、もっともっとより多くの人に伝えていきたいと思っています。本当に小さな力ですけどお手伝いさせてくださいね。一緒にがんばりましょう。
 
鳴門
最後に、ほんとに力強いことばをいただきました。どうもありがとうございました。
佐藤さんとインタビューア

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
まで。