水谷八重子さんに演劇直前インタビュー

楽屋訪問18

シルバーライニングプロデュース公演「私生活」鳴門例会(2006年3月19日)に“アマンダ・プリン”役で出演される水谷八重子さんを公演前に訪ね鳴門市民劇場がインタビューしました。

水谷八重子さん
鳴門市民劇場(以下鳴門と略)
今回のような翻訳劇のご苦労や楽しさはどんなものですか?
水谷(敬称略)
翻訳劇といっても、たとえば、「欲望という名の電車」などは舞台がニューオリンズでなければありえないようなお話、でも今回の「私生活」はそういったものではありません。人間がいて、言葉という武器を使って、話が展開していく…何も翻訳劇特有なことがない作品ですから、特に違和感はありません。
鳴門
水谷さんはやはりこれまでの作品から“和物”のイメージが強いのですが…。
水谷
そうですか?でも最初はジャズから入ったので、“和物”に出れば、ジャズとはイメージが違うなんて言われるんですよ(笑)。
 
鳴門
水谷さんが今回の作品のような「コメディタッチ」に出られるのは珍しく思いますが。
水谷
この作品は特に笑わせようとして演っているようなものではないんですよ。ただ、言葉を発するシチュエーションが面白かったり、言葉の投げ合いで人間の心が動いていく、そんなところが面白かったりする作品です。言葉は甘くもなるし激しいやりとりにもなる…。またこの作品は生活感が何もない作品で、言葉があって、そのユーモアを感じてくださったらいいと思っています。そういったことは、どの国でも、どんな文化の中でも成り立つじゃないですか。だからね、翻訳劇といっても、たとえばニューオリンズのように外国のどこか特定の場所でなければならない、っていう作品じゃないんですよ。
 
鳴門
舞台は英国ですよね。英国でこんな激しいやりとりが?という印象を受けましたが。
水谷
人種は関係ないんじゃないでしょうか。ものごとをマジメに考えない人と真面目にかんがえざるを得ない人と…そういうことでしょう。
 
鳴門
岡田真澄さんのご体調不良のために今回は川楓ヰ「さんが加わっていらっしゃいますが、チームの雰囲気はどんなものですか?
水谷
以前と全く変わりませんね。ずっと一緒にやってきたような感じですよ。
 
鳴門
各地の反応はいかがでしたか?
水谷
演劇鑑賞会はお芝居が好きな方たちが集まった会ですからどこの土地でも反応はよく変わりないです。
鳴門
演劇鑑賞会は平均年齢が高くなってきているんです。
水谷
若い会員を増やして欲しいですね。「芝居を観る」というのはひとつの習慣、そういう習慣を若い時から持つようにしてほしいと思います。
鳴門
最近はテレビではあまりお見かけしませんね。
水谷
こうやって舞台中心にしていると、テレビに出る暇はありません。
 
鳴門
二代目水谷八重子を襲名なさって11年ほど経つと伺っていますが、初代の思い出などをお聞かせいただけますか?
水谷
二代目を襲名したときに金丸座に呼んでいただいたのです。その後ないのですが…(笑)女性では初めてだったのではないでしょうか。そのときに、金丸座がうんと古い時代に父と母が訪れたときのサインなんかが残っていまして、大事にしてくださっているんだなと嬉しかったですね。
 
鳴門
水谷さんは戦前の作品などに出演されたらぴったりのように思います。たとえば樋口一葉なんかの役など…。
水谷
一葉といえば、彼女がお札になると聞いたとき、「おおつごもり」を見たいなあと思ったんです。でも、言葉が「昭和語」になっていたので、わざわざそれを「明治語」でナレーションしました。舞台は日々が楽しいですね〜。二度と同じお客様には会えないんですから。
 
鳴門
最近は新派の作品があまり観られていないように感じます。
水谷
守っていかなければならないもの、と思っています。これは、博物館のように「展示」するものではないんですね。「その時代のもの」を遺していかなければならない。でも台詞ひとつでも難しくて、時代が変われば「死語」も多くなるでしょう?でも、そんな言葉の中にも「宝石のような言葉」はあるんです。それを、現代の言葉にわかりやすく変えてしまってはダメなんです。叫びなら叫び、そのままの言葉を遺していかないとダメなんです。歌舞伎の言葉…とまではいかなくても、生きた人間の尖った言葉として、その時代のものを遺していかなければ…。役者は、転ぶにしても、お客様に「痛み」が伝わるような転び方、それでいて、きれいな転び方だと思われるような転び方をしなければなりません。今、平成の時代の人間が、たとえば明治の時代のものを演るとき、変わってくるのは当然ですけど、それでもね、遺していかなければならないものはあります。
 
鳴門
ジャズ音楽から入られて、映画、舞台と多彩なジャンルでご活躍ですね。
水谷
幅、狭いと思っているんですよ。もっともっとやっとけばよかったと思っています。より深く…という意味ですが。たとえば日舞、三味線、ピアノ….。もっとも、踊りは日々やっておかなければならないので難しいですけども。
 
鳴門
朗読劇について教えてください。
水谷
「滝の白糸」、原作は「義血狭血」というんですが、その朗読劇をやりました。いろんなバージョンの脚色がなされていますけど、お芝居だと、いまひとつ観客にわからせにくいんです。それをね、朗読すると、たった1行ですごくよくわかることがある。台詞でなくて朗読は1行ですべての人になれるでしょう、だから…だと思います。そこに醍醐味がありますね。
 
鳴門
最後に演劇鑑賞会についてひとことメッセージをおねがいできますでしょうか。
水谷
お客様は芝居が好きで来てくださっているでしょう。はじめから「観る」ことを楽しみに劇場へいらしている。マナーも100%ですし、でも、それでこちらはラクなんですが、安心してはいけないと戒めているようなところもありますね。今日の作品は、役者がノッてくるとどんどん転がるように進んでしまうので、皆、お客様を置き去りにしないようにと思って演じていますよ。

E-mailでのお問い合わせは              鳴門市民劇場ホームページ
nrt-geki@mc.pikara.ne.jp
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